昨年度までの検討により、ガラス基板に塗布したリン脂質に高強度フェムト秒レーザーを照射し、生じたイオンを質量分析計にて解析した結果、リン脂質の分子イオンが検出され、顕著なフラグメントイオンは検出されないことを見出した。この知見は、この高強度フェムト秒レーザーを用いたレーザー脱離イオン化法により、膜上の脂質分子を直接ソフトイオン化することが可能であることを示している。本年度は、以下の項目について検討を進めた。 1) 昨年度まで、リン脂質について解析を進めてきたが、本年度はコレステロールについても解析を進め、親イオンの生成効率を上昇させるための検討を行った。コレステロールガラス基板上に塗布し、加圧電圧4.2kv、パルス幅130fs、波長800nm、周波数10Hzのレーザー光を照射したところ、様々なフラグメントイオンが検出され、有意な親イオンの生成は認められなかった。そこで、温度上昇による親イオンの分解を妨げる目的で、液体窒素により試料を冷却するために冷却装置を導入し、基板を熱伝導の良い銅にかえて検討を行ったが、有意な親イオンの生成は検出されなかった。 2) 上記の原因として、冷却装置を導入したために試料導入部からのイオン検出の感度の低下が予想され、さらに装置の改良を進めた。試料導入部・加速部・検出部の位置の適正化を図った結果、予想される親イオンが検出された。 3) 生体試料への応用を図る準備段階として、マウス培養上皮細胞のアピカル膜と側底膜を分離し、各部の脂質組成と分子種を質量分析(LC-MS/MS法)により解析した。
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