平成18年度においては、ヨーロッパ・アルプスのうち、東部アルプスならびに南アルプスを中心に「空間秩序意識の形成」に関する調査を行った。東部アルプスとしては、オーストリアのグラーツのヨアンネウム(ヨハン大公記念シュタイエルマルク州博物館)の調査、ならびにオーストリア、インスブルックの民俗博物館の調査、これを行うことができた。インスブルック近郊のハル・イン・チロルでは、貨幣博物館そしてエーベン・アム・アッヒェン・セーでは、ノートブルガ民俗博物館を訪ね、調査を行った。 南アルプスについては、イタリアの南チロル、シェンナの民俗博物館、ならびにヨハン大公記念霊廟において調査を行った。 この二つの課題を遂行するにあたり、今回はテユービンゲン大学連邦制中央研究所(EZFF)を訪ね、連邦制・補完性原理・地域主義に関連する、1993年以来の研究蓄積の全貌をつかむことができた。年報、刊行雑誌等をすべて購入して、本萌芽研究の「空間秩序意識の形成」に関わる「補完性」と「地域主義」の歴史的な形成過程を解明する手だてを整えることができた。 これらの作業によって、今年度は以下の研究実績を上げることができた。 (1)「空間秩序意識」の形成主体については、アルプスに定住し、山岳農民保護政策(スイス)やイタリア憲法第43条、第44条に明記されている小農民や小営業者が都市や農村空間を維持していること。 (2)その上に、主としてカトリック信仰共同体としての、相互扶助の精神が、この地域の空間秩序意識の形成に決定的な影響力を及ぼしていること。その意味では、トマス・アクィナスの中世カトリック神学にさかのぼる「補完性原理」がその核心にあること。 (3)こうした意識を支える現実的な柱は、東部アルプスについても、南部アルプスについても、ライフアイゼン銀行ならびに貯蓄金庫という、カトリック相互扶助の精神を体現する地域金融構造であること。 (4)特に、ヨアンネウム(ヨハン大公記念シュタイエルマルク州博物館)には、ヨハン大公自身のシュタイエルマルク州全域の都市、農村の基礎自治体を包摂して展開される内発的な地域開発のなかから、アルプス地域に独自の地域主義意識と連携する空間秩序意識が形成されていることが判明したこと。 次年度は、スイスならびにフランスについて同様の調査研究を行いたい。
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