研究概要 |
平成18年度は、『有為無為決択』に見られる無畏山寺派の思想研究のための基礎作業を中心に行なった。 まず、北京版、チョーネ版、ナルタン版、デルゲ版(東北大学所蔵版、台北本、東大本ほか)の蔵訳『有為無為決択』第13-15章を入手し、各版を照らし合わせつつ、すべての異読を注記しながら厳密な校訂テキストの作成を行なった。 さらに、それに基づいて、漢訳『解脱道論』と比較しつつ、翻訳作業に取り掛かった。特に「五蘊・十二処・十八界」に関する議論である第13章、「縁起」関する第l4章については、翻訳にあたって、上座部大寺派のパーリ註釈文献や説一切有部などの論書における関連箇所と類似する内容を可能な限り提示するよう心掛けた。 それにより、大寺派(パーリ文献)とは異なる無畏山寺派独自の観念や解釈を一層明確にすることができた。その際、『解脱道論』に関して従来指摘されていなかった漢訳に関する誤り、および蔵訳の誤りを多数発見し、修正することができた。また、従来の『解脱道論』現代語訳における誤解や、『有為無為決択』第13章に関する唯一の研究であるスキリングの論文における解釈の誤りを指摘することができた。『有為無為決択』r解脱道論』ともに解決のつかない難解な単語や文章について若干の問題を残しつつも、本研究においては、伝承テキストの誤訳の可能性やその根拠、推察しうる本来の読みの再建、新しい解釈などを詳細に検討した。 ・スリランカ上座部の思想展開に関する研究成果を、Sri Lanka Association for Buddhist Studies, Second International Conference(Nov.17-19,2006)において、「Mind-Readingand Verbal Intimation」と題して学会発表を行なった。 ・『有為無為決択』第13章、第14章の翻訳研究は、雑誌『仏教研究』に掲載する予定である。
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