本研究は、現代の宗教性を個々人の宗教意識の中に見、その宗教意識を摘出するために、現代的宗教性を表現する言葉として「スピリチュアリティ」を選択するとともに「スピリチュアリティ」を主題とした映像作品を制作し、視聴者がその映像作品を鑑賞した後、制作者と作品について対話するという実践から生成された言説を解釈、分析するものである。諸作品は、民俗や伝説、人工的生命としてロボットを題材としたドキュメンタリー、様々な素材のコラージュによって映像化した前衛的作品などがあり、それぞれの作品の表現していると考えられる「スピリチュアリティ」の像をめぐって対話が行われた。まず主題に関しては、神霊や無機物のいのちや偶然や縁あるいはトランスが主題とされており、いずれも一言でまとめれば、「超人間的なもので人為によって操作することのできない何ものか」を「スピリチュアリティ」の意味内容として考えられているという点である。対話が実質的に可能だった作品とそうでなかった作品とがあったが、対話が成立したものはいずれも、制作者の意図したところを視聴者が探りあてようとし、それを受けて制作者が説明するという流れで展開された。 神霊がスピリチュアリティ言説のひとつの核となっている点は、伝統的であるとされる表象文化を背景としている点では異なっているものの、昨今の「スピリチュアル・ブーム」と称される文化的動向と共通している。無機的ないのちと有機的な人間存在との絆という関係性はそれに対して新しいスピリチュアリティ言説である。しかし、不可視の動態と人間の諸動作に対する反応というコミュニケーション的観点からすれば、人間間あるいは人間とペットなどの生命体との関係性と相似的である。対話はある意味で主題の確認と解釈として成立し、「超人間的なもので人為によって操作することのできない何ものか」という意味での宗教的聖性を現代的素材で反復している。
|