1、18・19年度に引き続き、日本思想・韓国思想関係の「図説」類の収集・実物調査を行ない、データベース化するための整理作業を行った。また「図説」の分析に必要な史料・参考文献の収集を継続した。調査は、東北大学図書館狩野文庫を中心に行なった。また韓国思想関係の「図説」を含んだ思想理解のために、「日韓共同シンポジウム:18-19世紀東アジア思想空間の再発見-丁茶山の時代の韓国・日本学術史-」と題するシンポジウムを、東北大学にて主催・挙行した。 2、収集した「図説」と、それを収める文献史料の関係に関する分析・考察のために、18Cの日本思想・韓国思想の比較に焦点を合わせ、学問方法論・科学思想・政治思想・宗教思想に区分して、整理・分析した。その過程で「朱子学」と「民衆の宗教的世界観」との関係の問題などの重要な課題が浮かび上がってきた。 3、2の整理・分析をふまえ、近世日本の「図説」が「図説」として一括りにできず、また単純な形態上の分類よりも、それらを当時の知的体系とその動揺という静態的・動態的な視座の中に、位置づけることの必要性が明らかとなった。そのため『日本思想史ハンドブック』を共編著し、その中で、啓蒙的な形ではあるが、近世思想関係を中心に、先行研究の徹底的な見直しと、中江藤樹・伊藤仁斎・荻生徂徠などを中心に、新たな近世思想史理解の可能性を提示した。 4、3に平行して、韓国思想の「図説」を含んだ知的体系に関する研究成果とのつきあわせを目的とし、18Cの韓国の代表的思想家丁茶山に関する最新の研究である琴章泰(ソウル大教授)『茶山実学探究』の翻訳を行なった。この過程で、いわゆる「経学」が当時の知的体系の中でもった意義の再把握の課題が浮上し、そのため伊藤仁斎の『孟子』観を中心にした分析・考察を行ない、それを当時の東アジアの『孟子』を中心にした経学思想との比較、またさらにそれを前提とした、当時の「朱子学」と「民衆の宗教的世界観」との関係の中での「図説」のもつ意義を考察するための準備段階とした。
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