1 昨年度は、文学、演劇、思想のセクションごとに、<身体的痛み>の表象についての研究を行った。その成果として、研究代表者および各研究分担者は、「国際サミュエル・ベケットシンポジウム東京」2006年Borderless Beckett(日本サミュエル・ベケット研究会、早稲田大学21世紀COE演劇研究センター主催)において、本研究に関連するテーマで口頭発表を行った。また、このシンポジウムにGarin Dowd氏、Peter Boxall氏を招聘し、研究発表を通して本研究に関する意見交換を行った。 2 セクションごとに見ると、田尻は、クッツェーの小説における身体や痛みの表象(拷問も含む)が、ベケット作品のそれを継承していることを立証するための前段階として、クッツェーとベケットの関係についての全般的な考察を行った。またシンポジウムの機会に初来日したクッツェー氏本人と身近に言葉を交わし、本研究を進めるうえで、きわめて貴重な体験をした。堀は、4月にダブリン、9月に東京で開催されたベケットシンポジウムでぐ8月にヘルシンキで開催されたFIRT(国際演劇学会)で、ベケットの影響を受けた日本のアングラ演劇においてしばしば描かれる太平洋戦争の犠牲者の経験が、ベケットが描く身体的・精神的痛みを伴う経験と重なる点を論じた。また、3月に本研究テーマを含むベケット論の著書を上梓した。対馬は、<身体的痛み>の伝達可能性、あるいは共有可能性について考えるうえで基礎となるアーレントの構想力概念について研究を行った。この考察は『哲学』、『社会思想史研究』に論文として掲載される予定である。また、ベケット演劇における他者を喚起する力についてアーレントを通して理解する試みとして論文を執筆した。 3 <身体的痛み>の共有可能性に関する文献、研究資料についての情報を、作家、テーマごとに収集し、データベースの作成を行った。
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