本研究の初年度、平成18年度には、マダガスカルの首都アンタナナリブに8月頭から1ヶ月滞在し、アカニニ・マレニナろう学校、マダガスカル全国ろう者協会を訪問したり、またネイティブ手話話者から現地調査を実施した。マダガスカル手話に関しては、これまで、現地のろう者による、語彙集の編纂、また多地域方言語彙集の編纂などは行われてきているが、文法研究はほとんど行われていない。研究代表者は、まず、語順に関心を持ってデータを集めてきた。語順とは、まず、主語(S)、目的語(O)、動詞(V)の順番、即ち基本語順であり、また文中の様々な要素の順番である。マダガスカル手話に、影響を与えている可能性のある、音声・文字マダガスカル語の基本語順は、VOSあるいはVSOであり、そのほかに、SVO、OVSが可能である。マダガスカル手話では、OSV、SOV、SVO、OVSが可能であり、音声・文字マダガスカル語とは、半分しか重ならないことがわかった。マダガスカル手話は、音声・文字マダガスカル語から影響を受けているとしても、それは全般的なものではなく、部分的、選択的なものであることがわかった。その他の文中要素の順番に関しては、主要部(head)が従属部(dependent)に先行することが多い音声・文字マダガスカル語に対し、マダガスカル手話では、主要部が従属部に先行する場合も、後行する場合も見られることがわかった。このようなゆれが、生来のマダガスカル手話文法の持つ特徴なのか、音声・文字マダガスカル語からの干渉の強弱によってもたらされるのかは、今後の調査・研究を待たねばならない。
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