本研究は、スリランカ手話における音韻的要素の分布の偏りの記述を通じて、スリランカ手話のネームサインと一般語彙において音節がそれぞれどのように形成されるのかを解明することである。 18年度の研究実績は以下の通りである。 (1)手話単語を形成する手の形、動き、位置という主要コンポーネントと各コンポーネントにおける下位コンポーネント、すなわち、音節タイプ、音節数、品詞、語彙分野を記述項目として単語を登録し、データベースの構築を行った。 (2)不足している分野の語彙収集と蓄積したデータのインフォーマントチェックを目的に平成18年8月にスリランカで現地調査を実施した。現地ではスリランカ手話のネイティブ・サイナーのAsoka Abeysekera氏が研究協力者として語彙データの提供とインフォーマントチェックを行った。 (3)データベースを利用して、語彙分野ごとに主要コンポーネントと下位コンポーネントの分布の偏り、特に調動位置に基づき網羅的に分析した。その結果、加納(2006)においてネームサインと一般語彙との比較で、ネームサインには複数の制約、すなわち、身体領域制約、同一主要エリア内制約、頭部接触制約、身体領域有標性制約の5つの制約がかかっていることが明らかになった。また、以上のことより、スリランカ手話においては、音韻的要素の分布の偏りが語彙によって異なっており、ネームサインが他の語彙分野とは異なる固有の領域を形成しているということが明らかになった。
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