本研究の目的は、スリランカ手話における音韻的要素の分布の偏りの記述を通じて、ネームサインと一般語彙の各語彙分野においてそれぞれ音節がどのように形成されるのかを解明することである。手話言語における音節は、手の形・動き・調動位置という3つの主要パラメーターから構成される。音節タイプは片手か両手か、手型の異同、手の動きの異同によって異なる。 手型は一般語彙とネームサインとも無標手型が使用される傾向にある点で共通しているが、ネームサインは特定の手型の使用が主となる。手の動きは、ネームサインの場合、手の動きが小さく、接触運動、二点接触、手型変化により特徴づけられるのに対して、一般語彙の場合、手の動きが大きい軌跡運動と向きの変化により特徴づけられる。位置は、使用頻度の観点から一般語彙は中立空間により、ネームサインは頭部によって特徴づけられる。音節タイプは、一般語彙は様々なタイプの広範な分布により、ネームサインは片手タイプの偏った分布によって特徴づけられる。 3つの主要パラメーターのうち、調動位置が各語彙分野の音節形成を動機づけ、ネームサインらしさと一般語彙らしさを動機づける。つまり、ネームサインの場合、頭部位置により、一般語彙の場合、中立空間位置により、使用される手型と動きと音節タイプの分布に偏りが生じているのである。特にネームサインの場合、目や口を含む頭部は際立ち度が高く、視認陸が高いという特徴を有しているために、他の位置に比べ、頭部領域は細分化され利用される。そのため、それに適した音節タイプ、手型、動きが選択され、音節が形成されるのである。 従来のろう児の手話習得研究や「言い間違い」研究で、習得の最も早いパラメーターと最も「言い間違い」の少ないパラメーターが位置であることが知られている。音節形成における位置の役割を解明した本研究は、位置の重要性を実証した研究として位置づけられよう。
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