今年度は、前年度に続き元刻文字資料の調査を行って、元刊本のデータベースを作成し、約500件の文献リスト(第一稿)を作成した。現在これに基づき、原本の影印複写あるいはそれに最も近い後代テキストの入手に努め、また条件の整ったものから順次テキストの初歩的閲読を進めて、口語資料の特定を試みている。その過程で中華再造善本の所蔵を増やし、また元代稀見文献を多く収録する叢書『宛委別蔵』を購入しえたことは、既入手資料の空白を埋めるものであり、貴重な成果であった。『台憲文書』や『至正条格』などの政治的文書は近年学界において急速に研究が進んでいるが、これらについても基本的な資料を入手し、今後の研究の基礎を固めることができた。今年度はまた、国会図書館関西館での文献調査、複写収集をも多く行い、当館のアジア情報センターおよび国会図書館東京館所蔵の貴重な元代文献資料を目視できたことも大きな成果である。今後さらに積極的に当館を利用したい。 いまのところ、元代口語資料として、元雑劇、政治的文書(蒙古語直訳体)、『老乞大』など、既にある程度研究が為されている研究対象の他に、禅語録、元詞(楽府)、日用工具書などに注目している。そして、これらを結ぶものとして、天目中峰和尚の雑録・語録、および『梅花百詠』詞などの著作の読解を始め、中峰和尚にとっての口語表現の位置づけを考察したい。今後の課題としては、元代口語関連辞書の項目別総合索引の作成、続蔵経に収録されている禅語録の原本確定およびそのテキストの入手、付随して前段階の唐宋禅語録の研究、また多く伝わる明清筆写本の文献価値確定の試みなどがある。口語文法については、『老乞大』の再読を通して、その口語文法の特徴をできるだけ正確に把握できるように努めたい。
|