教育やマスメディアの普及によって日本語を特徴づけていた諸方言の多様性が崩れ、多くの方言が標準語化されようとしている。この状況を踏まえ、本研究は鹿児島方言を母方言とする話者の標準語発話を分析し、そこにどのような母方言プロソディーの干渉が見られるかを実証、理論の両面から探ろうとするものである。 今年度は上記の研究の基礎研究として、鹿児島県の2地点(鹿児島市、薩摩川内市下甑町)において下記の要領で調査を行い、鹿児島方言と甑島方言のアクセント体系・規則について分析を進めた。 (1)調査語リストの作成 これまでの鹿児島方言調査で用いた調査語リストを再検討し、語種(和語、漢語、外来語)や音節構造、標準語アクセント型との対応、等々の要因をすべて考慮に入れて、言語学的にバランスのとれた調査語リストを完成させた。 (2)インフォーマントの確保 薩摩川内市下甑村手打(甑島)と鹿児島市の2世代家族を中心にインフォーマントを探し、協力を依頼した。 (3)聞き取り調査・録音 鹿児島市と薩摩川内市(甑島・手打集落)において、現地アクセントの聞き取り調査を行った。 (4)調査データの分析 (3)の調査から得られた音声資料を分析し、アクセント体系を分析した。 以上の結果、甑島・手打集落の中年層話者は甑島方言の二型アクセント体系を保持しているが、鹿児島市の20歳前後の話者は鹿児島方言の二型アクセント体系をあまり保持しておらず、標準語と鹿児島方言が混ざった体系へ変化させていることが明らかとなった。
|