昨年度に引き続き、英語の史的コーパスを利用しながら、社会言語学的手法に基づいて、言語変化と言語使用者との関係を明らかにするための研究を遂行した。本年度は、すでに昨年度より着手している、中英語後期の『パストン家書簡集』の調査を進めるとともに、The Oxford English Dictionaryの例文データをコーパスとして利用し、言語変化と文体とのかかわりを分析した。その結果、たとえば多重否定の衰退の進度が、著者の社会的地位および性別と密接に関わっていることなどが明らかになった。特に性別による違いは大きいようで、言語変化の速度が速かった後期中英語から初期近代英語にかけて、その保守性・革新性に性別が関わっていたことが推測できる。The Oxford Englih Dictionaryを利用した研究では、著者の社会的地位や性別といった問題を扱うことは容易ではなかったものの、文学作品というジャンルの資料を通して、言語変化全般をどのように論じることが可能であるかという観点から、示唆的な成果を得ることができた。具体的には、平成19年度は、preventという動詞の発達を分析し、動名詞のみの構文と前置詞のfromを取る構文が歴史的にどのように競合してきたかを明らかにした。
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