茨城県大洗町に集住するミナハサ地方出身インドネシア人の日本語習得の実態とそれに関与する諸要因を質的調査方法によって解明しようとした。調査は同町にあるキリスト教会を拠点として、牧師からの紹介により信者にコンタクトを取り、さらに紹介を受けるという方法で調査協力者を増やしてインタビューを重ねた。その結果、同地域のインドネシア人の社会的ネットワークがインドネシア人同士に集中していること、職場での最低限のコミュニケーションを日本人と行う以外にはほとんど日本人との接触がないことなどが明らかになってきた。日本語能力が全般に低く、単語の羅列による発話が目立つことから、OPIによってコミュニティ全体の日本語口頭能力の調査を行うこととし、平成19年10月から翌年1月にかけて、100人のOPIを実施し、その結果を分析した。その結果、初級下が16%、初級中が63%、初級上が16%、中級下が4%、中級上が1%という判定が得られた。初級の合計は95%で、中級の合計はわずか5%であった。中には10年以上日本に滞在し、日本人従業員と同じ職場で毎日働いていても日本語の習得が全く進まず初級下に留まっているものもいた。このような労働者の日本語習得についての定量的な調査結果が得られたことが本研究の最大の成果であった。また、OPIに前後して、日本語使用の実態に関する質問を中心とした半構造化インタビューも実施し、定住インドネシア人の日本社会に対する心理的距離や社会的ネットワークについてもある程度の知見が得られた。これまでに明らかになったこととしては、中級に達しているインドネシア人の場合、日本人との社会的ネットワークがあり、第二言語習得が道具的動機ばかりでなく、統合的動機によって支えられている可能性が伺えることが分かった。
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