・明治期の七宝制作の場の遺構について、各調査対象ごとに専門研究者の協力を得て実地での調査活動を行なった。いずれも聞き取りと作品や資料等は写真及びデジタル機器で記録した。 研究代表者が所属する京都七宝研究会で考察を重ね今年度は、錦雲軒稲葉七宝(京都府)、徳光院(兵庫県)を調査の対象とした。錦雲軒稲葉七宝は稲葉七穂により明治22年に創業し近年まで七宝の製造販売を行なってきた窯元で現在の当主から聞き取りを行った。徳光院は川崎造船の創業者川崎正蔵が名古屋出身の七宝工・梶佐太郎に宝玉七宝の工房を営ませた跡地で、後に川崎家の菩提寺となった寺院である。その経緯から徳光院には川崎家から伝来した宝玉七宝が残されており、ご住職から聞き取りを行なった。さらに、無量寺応挙・芦雪美術館(和歌山県)から有線七宝を所有する情報と調査の機会を得て、研究会にて考察を行い同館の館蔵品が川崎家から伝来した宝玉七宝であることが明らかにされた。 ・研究代表者は所属する近代国際陶磁研究会が6月に開催した第7回総会(講演会)にて、事例報告『並河靖之一その人と京都七宝一』の研究報告の執筆と発表を行なった。その際に各専門研究者から京都七宝を明治期の技芸技術としてより深く追求するためにも近代窯業に関わる研究の視座の重要性を改めて示唆され再認識し、これを契機に領域をこえた研究者からの協力を得て10月には加瀬家(千葉県)にて七宝家・濤川惣介に関わる調査を行なった。千葉県海上町に所在する加瀬家は、同地が濤川惣介の出生地であることから惣介に関わる作品や資料を収集し、郷土の資料として護り伝えており、当主から聞き取りを行なった。 本年度は、京都七宝成立に関る資料を網羅的に収集し、収集した書籍、資料を系統的に整理・分類して、京都七宝及び近代七宝の諸相の整理、七宝粕薬に関わる資料、技術改良、伝播に関する人物について抽出しデータベース化の準備を行なった。
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