本年度は明治期の京都で興隆し急激な発展を遂げるも地場産業としての継続が困難となり衰退した京都七宝に着目して、技芸(工芸)技術の近代化の過程を明らかにする事を目的に、地域の地場産業として創造されていく過程について、これまでの調査の整理と検証及び補足的な調査を行い、調査・研究資料の総合的な整理・報告とする。これまで断片的であった京都七宝に関わる研究を編年的かつ総合性のあるものにと目指し、以下の5項目を実施した。(1)古記録等を翻刻と、資料や七宝制作に関わる遺構の調査の継続。(2)近代技芸技術に関する研究会を開催。(3)書誌資料及等をもとに七宝資料の所在に関するデータベース化。(4)京都七宝に関わる資料の総合的なデータベース化。(5)複合的で総合性のある資料となるように編年的に整理する。これまでの研究活動及び新たに得た知見の客観的かつ多角的な検証と考察、収集した資料のより充実した活用を試みるため、各専門家の参加の協力を得て近代技芸技術研究会を開催した。研究会にて、書付や古記録等の翻刻作業と、技芸(工芸)技術の近代化をより具体的に検証することが今後の研究においての重要であるとの認識が確認され、新たな調査を研究計画に加え、並河靖之七宝記念館と東京学芸大学の協力を得て明治期の七宝釉薬の科学分析調査を行った。(1)は『日誌 並河店』書付資料他の翻刻が進められた。(2)の近代技芸技術研究では、歴史、工芸史、古文書、文化財保存科学、文化財修復、美術史等の専門家による日本の七宝研究における近代工芸産業史としての新たな視座を開くための研究活動を試みた。(1)(3)(4)に関わる資料整理や検証と考察、科学分析調査等を含めおよそ9回開催し、研究会は今後も継続し(5)を行う体制が整えられた。研究活動及び研究会による成果は、従来の七宝研究に新たな知見を加えるものであり、産業技術史学会(6月)、文化財保存修復学会(6月)等での発表を予定している。
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