本研究は、分析的手法を用いて多角的に土器製作者個人を同定する方法の開発を行うものであり、前年度に継続して資料収集と調査・実験を実施した。 土器表面にみられる製作工具痕における同一工具の同定法については、初年度の同一個体内での痕跡の同定などの基礎的研究を踏まえ、異なる個体間での痕跡の同定に拡張して実験・検討を行った。使用した方法は、レプリカ法による痕跡の転写とそのデジタル画像データによるマッチングのほか、工具痕のつき方に関する実験、蛍光X線分析による胎土分析などである。弥生土器のほか東南アジア・フィジーの土器を対象とした。レプリカ法では断面をマイクロスコープを用いて観察等し、断面から得られた高解像度画像を画像処理ソフト上でマッチングさせる方法を前年度開発したが、高解像度画像の歪み補正に関する検討・実験の結果、より有効なマッチングを行うことができた。こうして、同一個体内だけでなく個体間でも同一工具を確認する方法をさらに洗練できたのは大きな成果である。また、同時製作だが製作者が異なる個体間において蛍光X線分析を実施するなどして、製作者による胎土調整の違いなどに起因する個人差の把握も試みたが、胎土調整のクセが検出できる場合があることも確認できた。さらに、個人同定の判別効率を確認するため、実験製作品などを用いてブラインド・テストを試みた。レプリカ法では概ね良好な成績が得られた。工具痕の観察から身体技法を復元することも一定程度可能であることもわかった。ただし、同一工具であっても異なる部位を使用した場合や、同一部位でも極端に違う角度で施したものなどは、同一工具痕を他の工具と判別する可能性があることもわかった。こうした成果をもとにすれば、個人同定法の方法論の基本的な確立が可能であるという確信が得られつつある。
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