本研究は、「周縁性」を中心テーマとして、社会的な周縁におかれた少数者集団が、自らが経験してきた歴史・社会的な苦境の中で、何を感じ、何を希望として抱いているかという問題の解明を目指すものである。具体的には、東南アジア大陸部北部から中国西南端にかけての山岳地帯に暮す少数民族ラフを対象として、歴史的・社会的な周縁化の過程の中で、彼らの間で起こってきた伝統宗教の改革・復興運動およびキリスト教への改宗に焦点を当てる。特に、「周縁性」の経験および「周縁性」への応答としての宗教変容や宗教運動についての、ラフ自身による語りの実証的な記録と分析とによって、その社会的な経験を彼/彼女らの視点にできるだけ近づいて理解しようとするものである。 このような研究目的をもつ本研究は、(1)東南アジア大陸部山地における諸民族の政治・経済・文化的権力関係の歴史研究、(2)ラフの宗教復興・改革運動の研究、(3)村人自身の語りによる「周縁性」の経験の研究の3つの部分から構成される。このうち平成18年度には特に、(1)と(2)について文献調査を中心に研究が進められた。平成18年8月から9月にかけて、中国雲南省およびタイ国チェンマイ市にて現地調査をおこなった。雲南省では、昆明市を中心に、中国西南地方の少数民族の歴史を現状に関する文献を収集するとともに、西南部の複数のラフ村落にて、中国のラフの歴史と現状とにかんして聞き取り調査をおこなった。一方、これまで十年にわたって研究代表者が調査をおこなってきた北部タイにおいては、本研究のテーマに関する文献や資料の追加収集をおこなうとともに、ラフ村落にて引き続いて聞き取りをおこなった。これら平成18年度の研究活動は、これまで研究代表者がおこなってきた研究のさらなる推進であるとともに、中国とタイ国という国境をまたいだ地域での少数者の歴史と経験についての重要な知見をもたらすものであった。
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