9月11日から27日にかけて実施した研究滞在では、ドイツ法制史学会とマックス・プランク・ヨーロッパ法史研究所(MPI)における意見交換や資料収集を行い、現地の研究状況の全体把握に努めた。まず、専門職に関する社会史研究では、伝統的に二大潮流がある。その一つはイギリス社会史で支配的であった見解であり、法曹の教育システムや自治組織の発達を近代化と認める。もう一方はドイツにおける大学での学識法曹と国家官僚化を二つの大きな前提と考える。双方を視座に据えながら実証的な研究を積み重ねようとする立場をチャールズ・マッククランが提唱し、今日の東欧研究者の多くもこれに同調する。組織・国家官僚・高等教育機関、三者の一定の流動性ある相互作用が専門職の発展過程と密接不可分に関わり、近代専門職とその代弁組織の全発展期を形成するというのが、その眼目であり、社会科学理論にとっても新たな展望を開く可能性をもたらすと考えられている。マッククランらを中心とするグループによれば、ドイツ諸邦国の法専門職の発展は、英米世界における専門職化の諸条件と東欧や非ヨーロッパの諸国におけるそれとの一種の中間地に立脚する。中・東欧諸地域に関する専門職発達史研究について、1995年には論文集『近代東欧における諸専門職』(独・英語)が公刊されている。MPIでは東欧法史プロジェクト課題の一つに法曹教育を取り上げ、東欧各国からの研究者参加による会議を重ね、報告集の刊行も間近い。ナショナリズムを克服し、例えばルーマン法社会学による説明や地域間交流の実証研究に注目している。また、ほかに得られた知見の一つとして、東欧では、民族的・階級的・宗教的諸問題が果たす役割は大きく、少数の近代的専門職を土着的社会に円滑に統合することは、しばしば地方的諸条件によって妨げられている。
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