本年度の目的は、19世紀から20世紀初頭の中・東欧、いわゆるハプスブルク帝国の領域における法曹団体の社会的役割を明らかにすることにあった。 この目的のため、大きく三段階に分けた研究実施計画の第1期では、ドイツ法律家大会の活動概要に関する議事録および機関誌を収集し、この団体が統一編纂過程で法専門職集団として強い発言力を持ったことを確認した。続いて、ウィーン大学ブラウネーダー教授の論稿により、ハプスブルク帝国領域でも、ことにドイツ語で教育を受け、活動する法曹たちの間に類似の法律家協会が形成されたことを確認した。それらは、18世紀以来の読書協会と、法専門職の職能団体とが統合された団体であることが多い。ドイツ語以外の言語でも、モラヴィアのように、法律家協会の年次報告書が見つかっている。 第2期では、ハンガリー国立図書館での資料収集と、パッサウで開催されたドイツ法制史学会での情報交換をもとにハンガリー王国内の法律家任意団体の活動を考察した。ドイツ法律家大会の理念に基づいた、とされる「ハンガリー法律家大会」の開催状況については、詳細な年次報告書が現地の国立図書館に残されている。その検討結果から、時宜を得た、重要な議題にも関わらず、大会の開催自体は11回で断絶してしまったことが明らかとなった。その要因として、開催地の首都ブダペシュトー極集中、政治への関与を避けて学問上の議論に特化する方針、経済面では自主的運営へのこだわり等が考えられる。以上の成果をまとめたのが熊本大学教育学部紀要論文である。 なお、第3期との関係では、ハプスブルク帝国各地の弁護士会の活動内容について、オーストリア弁護士新聞および法律雑誌の報告にもとづき、まとめる作業が続いている。地方の法実務の実態、弁護士の地位向上への取り組みを明らかにする方針である。
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