本研究は、「刑事裁判の充実・迅速化」を目的として刑事訴訟法に新たに導入された「公判前整理手続」について、基礎的・体系的分析を行うと共に、その多様な運用可能性を検討して、来るべき裁判員制度の実施時期までに、その円滑な運用に資する理論的・実践的両側面での具体的提言を行うことを目的としたものである。本年度は最終年度であり、昨年度までに実施した裁判官・検察官・弁護士との制度運用に係る座談会を雑誌に公表したほか、7月に、高松高裁管内及び広島高裁管内の刑事裁判官に対し、公判前整理手続の解釈・運用に関する講演と意見交換を行った。このような刑事実務家との意見交換等をも踏まえ、また、これまで実施した海外資料の読解等で得られた知見に基づき、公判前整理手続とそれに接続する裁判員公判手続の理想形態及び今後の重要課題について要点を論じた論文を公表した(後掲「裁判員制度と公判手続」)。また、司法研修所が主催した平成20年度刑事実務研究会(全国の裁判員裁判担当予定刑事裁判官の研修)に講師として参加し講義と意見交換を行った(後掲講演「裁判員裁判における審理運営上の課題」)。このほか、公判前整理手続の多様な運用可能性のひとつとして、公判手続においてその適用が問題となる刑法上の難解概念自体の説明と訴訟関係人間の共通理解の確立という課題について、裁判官との間で意見交換を行った。また、公判前整理手続の主要目的のひとつである「証拠開示」について、相当数集積されている裁判実例について、最高裁判所事務総局刑事局の協力を得て、そのほぼすべてについて閲覧・読解を進めた。証拠開示については独立に検討すべき点が多いので、今後の課題として研究を進行させる予定である。
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