平成18年度および平成19年度の研究成果に基づき、議決権付株式の価格を基にして、議決権制限株式の株価モデルを検討した。相続税との関係では、一定の要件を満たすことを条件として、5%のディスカウントが認められているが、伊藤園の無議決権株式の相場と議決権株式の相場との開きははるかに大きく、無議決権ディスカウントがおおむね3-20%程度にとどまるアメリカなどにおける実証研究の結果とは大きく異なる現状が認識された。これは、日本における少数派株主の利益保護力が必ずしも十分ではないことを示唆している可能性がある。議決権制限株式を上場する予定であった会社がそれを取りやめた例が少なくなく、現段階では、標本の数が十分に得られなかったため、議決権制限株式の評価については将来の課題となった部分が多い。また、株式の併合・分割にあたって、種類株式の評価を行う必要がある場合につき、単元株制度が導入されている場合には、議決権がないことあるいはあることを捨象しても、当該株主の利益を大きく損なうことはないのではないかという結論に至った。さらに、議決権制限株式の評価モデルについての知見をふまえて、拒否権付株式の評価についても検討を加えたが、議決権制限株式の評価との関係で、わが国における実証的データが十分に得られなかったため、多くが将来の課題として残った。ただ、拒否権付株式については、拒否権の対象となっている事象がどの程度発生するかについての株主の予想によって、拒否権の経済的価値(反射的に、それ以外の株式の価値)が影響を受けるものと考えられる。
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