研究概要 |
平成18年度における研究は、まず、血縁と生産活動との関連を明らかにするため、人々が無限期間生存し、生産活動に外部性が存在する農業経済をモデル化し、国家成立以前の自然状態における生産活動の分析を行なった。これは血縁間の距離が直系の子孫についてゼロになる場合であり、家族があたかも代表的個人として無限に生存するように考えられたものである。一方、他家族との血縁的距離は無限大とゼロの2つの場合を考察した。これは、村落において、家ごとに独立したものである場合と、村落全体が一体化したものである場合に対応している。また、生産活動の外部性は、農業生産物の収穫が必ずしも生産者に帰属しないものであることを想定したものである。以上の設定で無限期間のゲームモデルを構築し、対称ナッシュ解を求めた。 このモデル分析によって以下のことが明らかになった。まず、自然状態において、農業による生産活動が行なわれるための条件は、農業の収益率が、人々の時間選好率によって決定される一定値以上であることが必要になる。次に、この条件の下で、他家族との血縁的距離がゼロの場合には、常に最も効率的な生産が行なわれるが、距離が無限大の場合には、収益率と時間選好率によっては非効率な均衡が生じることが示された。このばあい、収益率の上昇によって効率的な均衡になることが示される。第3に、初期条件として農業資本が全く存在しない場合の方が、不十分に存在する場合よりも、長期的に生産活動が拡大する可能性があることが示された。これらのことから、国家成立のためには、血縁的距離が存在すること、収益率が時間選好率に比べて大きすぎないこと、そして、資本が不十分に存在すること、が条件として必要であることが示唆された。 以上の結果は、A Dynamic Model of the State of Nature with Investment Opportunities(千葉大学ワーキングペーパー#06E039,2007年3月)にまとめられている。
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