研究概要 |
平成19年度における研究は,昨年度に構築した無限期間生存モデルを世代交代モデルに拡張し,複数の家計が存在する経済での生産活動に外部性が存在する農業経済をモデル化し,国家成立以前の自然状態における生産・投資活動の動学モデル分析を行なった。各家計は親から子へと家を継ぐ。そして親子には血縁としての情が存在する。血縁の影響のモデル化については,各親の効用関数に子の消費が入る形で定式化し,血縁の影響力の強弱は親の効用に占める子の消費のウェイトとしてパラメータで表した。以上の設定で無限期間のゲームモデルを構築し,所有権の存在しない自然状態および,所有権の存在する経済のそれぞれにおいて対称ナッシュ均衡を求めた。 このモデル分析によって以下のことが明らかになった。まず,複数の家計が存在する自然状態において,農業による生産。投資活動が行なわれるための条件は,血縁の影響力が一定値以上であることが必要になる。そして,この血縁の影響力は,農業の生産性が大きくなればなるほど低下することになる。次に,所有権が存在する場合には,血縁の影響力が一定値以上であるときに限り生産が行なわれる。これらのことから,血縁の影響力の強弱が,生産活動や国家成立に大きな影響を与える可能性のあることが示唆された。 以上の結果は,A Dynamic Model of the State of Nature with Bequest Motive(千葉大学ワーキングペーパー#07E042,2008年3月)にまとめられている。
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