平成20年度における研究は、昨年度に構築した世代交代モデルを基に農業生産(米作)における公共財供給モデルを構築し、複数の家系が存在する経済において、外部性を契機とした国家が成立する以前の、ロック的な自然状態における公共財投資活動の動学モデル分析を行なった。各家系は親から子へと家を継ぎ、相続された農地によって生産活動を行なう。農地の単位当たりの収穫量は公共財である堤防の量に依存する。各家系は、各期において、農地の開墾または公共財供給を行なう。また、血縁の影響のモデル化については、各親の効用関数に子の消費が入る形で定式化され、血縁の影響力の強弱は親の効用に占める子の消費ウェイトとしてパラメータで表わされる。以上の設定でゲームモデルを構築し、対称ナッシュ均衡を求めた。 このモデル分析によって以下のことが明らかになった。まず、自然状態において自発的な公共財投資が行なわれるための条件は、血縁の影響力が一定倍以上であることが必要となる。この値は、血縁の影響力が強くなればなるほど小さくなり、公共財が供給されやすくなることを示している。また、分業による協力によって開墾と公共財供給を行なうことにより、厚生が増加する。これらの結果を前年度に構築した牧畜モデルの結果と比較すると、血縁の影響が強くなることによって公共財の供給が増大することは同様であるが、公共財の性質によって、協力の可能性が大きく異なることが示唆されるものと思われる。 以上の結束は千葉大学ワニキングペーパーにまとめられる予定である。
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