研究課題
研究計画に従って、ATR脳イメージングセンターで不確実性下での意思決定(100パーセントで4000円受けとる選択肢と50パーセントで8000円受けとる選択肢のいずれを選ぶかなど)の脳活動計測実験を実施した。さらに当初の計画にはなかった時間選好の意思決定(今日5000円受けとる選択肢と1週間後に6000円受けとる選択肢のいずれを選ぶかなど)の実験を不確実性下での意思決定と比較可能なかたちで実施した。これは標準理論に対して同様のアノマリー(90パーセントと80パーセントは程度の差だが100パーセントは特別に重視される、明日と明後日は程度の差だが今日は特別に重視される)が観察されている2つを比較することで、不確実性下での意思決定の特徴をはっきりさせるためである。現時点での暫定的結論は、将来の報酬を選択するとき、被験者は(現在の自分から将来の自分への)セルフ・プロジェクションと理解される脳領域をいっそう活発化させ、不確実性な報酬を選択するとき、被験者は計算と評価と理解される脳領域を活発化させるというものである。さらに実験が必要であるが、時間選好と不確実性下の意思決定が異なる脳活動に基づくこと、および時間選好がセルフ・プロジェクションと関係することは脳科学にとっても経済学にとっても示唆するところが大きい。経済理論の観点からは、とくに一貫する個人の意思決定ではなく、現在の自分と将来の自分とのゲームとして時間選好を理論化することに現実性のあることを示唆する。以上の(2008年3月の学会ではじめて報告された)本研究の主要な成果に加え、脳科学の基礎的理論とゲーム的状況(他人の意思決定を推測しなければいけないとき)の脳活動についての研究を実施して発表した。
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