本研究は、東アジア諸国の経済発展プロセスにおける企業家精神(Entrepreneurship)の役割に焦点を当て、開発経済学、経営学、社会学、心理学などの学際的な視点からこれを包括的に整理、検証、体系化し、企業家精神が持つ開発経済学的意味づけを積極的に明らかにすることを目的としている。企業家精神を顕在化させ、これが生産的な分野で具現化していく諸要因とメカニズムの解明、ならびにその開発経済学的意義と課題を明らかにし、広く国際開発政策に資することを目指す。 研究初年度にあたる平成18年度は、主に、本研究プロジェクトを遂行する上での基礎的な作業に専念した。具体的には、企業家精神に関する学説史的系譜、ならびに企業家精神の地域間格差を定量化するための方法論を詳細に吟味した。経済発展における企業家精神の役割は、学説史的に見た場合、その重要性が古くから強調されているにもかかわらず、近年、特に新古典派経済学の中ではこれが正当な重きを以て取り扱われてこなかった問題点が明らかにされた。他方、企業家精神の研究はビジネス研究の分野で盛んであり、ここで得られた成果をいかに経済学のタームに置き換えて分析の枠組みを構築するかが大きな課題として提示された。この問題に対して、本研究プロジェクトでは、企業家精神をいわば「潜在変数」として取り扱い、顕在化された企業家行動からこの企業家精神の強度を定量的に検出できるのではないか、とのヒントを得た。この企業家精神の強度は、ビジネス研究で言うところのEntrepreneurial Orientation (EO)に類似している。本研究では、多変量解析でいう共分散構造分析の手法を用い、東アジア各地域のEO指数を計測し、これと多国籍企業とのリンケージ形成の相関を調べようとするところまで方法論の精緻化が進んでいる。実際の現地調査は、平成19年度以降に実施予定である。
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