研究概要 |
平成20年度は本研究プロジェクトの完成年度に当たる。本年度の活動としては、昨年度に引き続きマレーシアでの現地調査、関連文献の確認、成果のとりまとめなどを行った。現地調査の内容であるが、多国籍企業、ローカル企業両者からの聞き取りに基づき、企業家志向性(Entrepreneurial Orientation,以下E.O.)の方向性を定性的に検出するアプローチを採用した。具体的には、多国籍企業のサプライヤーとして成功しているローカル企業と、国内市場にとどまり多国籍企業との取引に関心を持たないローカル企業とのE.O.比較を行った。その結果、研究成果として以下のような知見が得られた。 多国籍企業サプライヤーとノン・サプライヤーを比較した場合、第一に、前者はE. O.の中でもすぐれて技術志向性が高いことが確認された。興味深いことに、これは"事前的"要素であり、もともと技術志向性の高い企業家が多国籍企業サプライヤーとして生き残ることケースが多い。他方ノン・サプライヤーは、市場機会に機敏であり、かつ、独立志向性が相対的に強いことも確認された。両者共に創業時に最も苦労しており、隘路となっているのは、資金、技術、人材、ネットワークなど、その企業家が置かれた初期条件に大きく依存する。本研究の結論として、サプライヤーとノン・サプライヤーを分ける要因は、(1)E. O.の方向性、(2)就業初期に与えられた技能形成機会、(3)創業パートナーからの影響、(4)創業初期に多国籍企業と遭遇したか否か、などの諸要因に規定されることが確認された。地場企業にとってどのようなキャリア経路が利用可能であれば力強いサポーティング・インダストリーの構築につながるか、といった開発問題に対して、大きな示唆を与えるといえる。
|