中小企業の知的財産の保有と活用状況、及び知的財産権制度(主に特許制度)の活用状況を把握するために中小企業(製造業)にアンケート調査するとともに、複数の企業訪問を実施した。 回答企業(110社)のうち、約8割が特許制度を十分に活用しておらず、また、自社の強みといえるような特許を取得している企業も2割弱にとどまっている。一方、強みを「技術」「人材」「人的ネットワーク」や「信用力」といった無形資産とらえている企業が多く見受けられた。 このため、知的財産を権利化された知的財産権(特許権など)と狭く捉えるのではなく、広義の知的財産いわゆる知的資産と捉えなおし、それを活かす経営戦略を確立することが、中小企業にとってより重要であるとの結論を得た。 よって、知的資産を有効に活用する戦略検討のために、経済産業省がガイドラインを定め公表した「知的資産経営報告書」を、地域の中小企業や大学発ベンチャーの協力を得て7社分作成し公表したところ(http://www.liaison.kit.ac.jp/nakamori/sub2.html)、連携企業の開拓等の面で効果が出始めている。 さらに、中小企業の協力を得て、大企業との特許の共有やライセンス交渉を実践した。たった4人の従業員の中小企業が、東証1部上場の大企業と特許を共有し、さらにロイヤリティ支払いの契約締結ができるなど、大学の知的財産活用ロジックが中小企業のライセンス交渉に応用できることを確認した。ただし、当該ケースの場合、特許権だけでなく当該企業の有するノウハウや技術力など無形の知的資産全体を大企業が評価したことが、有利な交渉ができた要因であると考えられる。 そこで今年度は、引き続き大学発ベンチャーや中小企業の協力を得て、知的資産経営報告書を有効に活用しながら、実効ある中小企業の知的財産戦略を検討し、論文としてとりまとめ公表する予定。
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