研究概要 |
本年度は,前年度での先行研究の検討と分析枠組みの構築を踏まえて,厚木市および水俣市の市民団体が実施した政策立案・評価型の調査の実態について調査を行った。厚木市の市民団体(厚木ネットワーク)は当該地域の高齢者介護に関する政策立案を目的として介護サービスに対する地域住民の利用実態や意識を調査し,水俣市の市民団体(ごみ連絡女性会議)は当該地域のごみ減量に関する政策立案を目的として食品小売店における消費者の購買行動について調査している。そのさい,前者は行政とはまったく独立して,後者は行政側と緊密に連携してそれぞれ調査を実施しており,その結果前者に比べ後者の調査は実際の政策過程のなかである程度有効に機能しているが,自らの団体の政治的なエンパワーメントという観点からみると後者に比べて前者の調査活動の方がある程度まで有効に機能していることが分かった。しかしながら,いずれの団体も調査方法論に関する知識はほとんどなく,専門家による「科学的調査」を見よう見まねでやっていることがかえってエンパワーメントを阻害していることも分かった。したがって,専門家(社会学者)は「科学的調査」の方法論を市民団体に押しつけるのではなく,むしろ政策過程におけるそれぞれのポジションにあわせて調査を適切に意味づけ,それに応じてその方法を柔軟に組み替える必要があり,このことを踏まえて現行の社会調査士資格制度のあり方を再考する必要:もでてくるであろう。次年度は,本年度の調査・分析を踏まえて市民調査の望ましい方法論について検討する。
|