研究概要 |
自己調整過程とは,自分の目標や理想に対して自己の行為・状態を評価し,基準に達しようとする過程である。自己調整を行うためには意識的な制御処理が必要であり,そこには有限である処理資源(調整資源)が使われる。先行研究から,この資源を一度使うとすぐには回復せず,資源が枯渇した状態では自己調整に失敗することが示されている。本研究では,従来から用いられてきた質問紙・行動測度に加え,脳の電気活動(脳波の一種である事象関連電位)を測定することにより,このような自己調整過程の神経基盤の解明とそれに基づく理論枠組みの精緻化を目指す。 本年度は,社会的認知の研究において多用される"内的な認知資源"という説明概念を定量的に測定する方法の開発に焦点をあてた。実際の研究に先立ち,従来の社会的認知の分野で使われてきた構成概念と認知心理学・認知神経科学の分野で使われてきた構成概念が微妙にずれていることが明らかになった。そこで,数回の研究会を通じて,概念の整理と研究課題の明確化を行った。その結果,(1)調整資源は,タイムシェアリング研究で想定されている注意資源とは異なり,疲労に似た性質を持っており,時間的な変化をおさえることが重要であること,(2)調整資源の容量には個人差がありそうなので,調整資源を測る指標の妥当性を確認するには,調整資源を実験的に枯渇させたのち,回復させるという参加者内デザインで検討するのが適していることが明らかになった。そのため,調整資源を枯渇させる実験操作だけでなく,調整資源を回復させる実験操作をみつける必要がある。現在は,この作業仮説に従い,反応時間・誤反応率を測定する行動実験を計画しており,次年度以降,事象関連電位の実験につなげていく予定である。
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