研究概要 |
本研究の目的は,視対象を観察するときの姿勢や視線方向が,その対象の知覚や認知過程に与える影響を定量的に明らかにすることである. 昨年度は,まず姿勢を制御しながら,視覚刺激を観察するための実験システムを構築した.無段階で背もたれの角度を変えられるリクライニング・ベッドを購入するとともに,ディスプレイを設置する高さと角度(チルト角とスィーベル角)を無段階で変えられるディスプレイ架台を製作した. 次に,この実験システムを用いて,予備実験を行った.この実験では,座位における背もたれの角度とディスプレイの傾き(チルト角)が図形の知覚に及ぼす効果を検討した.高齢者(10名)と若齢者(11名)を被験者とし,加齢の影響についても調べた.視覚刺激としてT字または逆T字形(⊥)の垂直水平錯視図形を用いた.被験者の課題は,ディスプレイ上に呈示される図形の垂直線分の長さを水平線分と同じ長さと知覚されるように調節することであった.被験者はベッド上で座位,半座位(背もたれの傾きが45度),あるいは仰臥位の姿勢をとった.またディスプレイの位置を前額平行面,チルト角が上向き45度,あるいは下向き45度になるように設置した.実験の結果,高齢者も若齢者も垂直水平錯視が観察されたが,両者とも姿勢の変化は知覚に影響を及ぼさなかった.しかし,ディスプレイのチルト角が上下に傾くと,高齢者の錯視量は前額平行面に比べて減少する傾向が見られた.このことから,ディスプレイの傾きが画像知覚に及ぼす効果は加齢により変化することが示唆された. 実験と同時に,家庭におけるテレビの設置環境について調査を行った.若齢者の観察時の目の高さは,テレビ画面よりもやや高く,画面を見下ろすように設置されていることが多かったが,高齢者では目と画面の高さが同じ,もしくは画面の方がやや高く設置されているケースが見られた.
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