本年度は、語りを基盤とした協同的態度の育成を目指すコミュニケーション教育の開発に関わって、以下の3点のことを行った。 1.国語教育の現代的動向を見ると、PISA型読解力への注目が高まり、学習者に意見を持たせる学習が重視されだした。これをコミュニケーション教育の視点から見ると、個々の意見が異質性を有し、これを乗り越え合意形成するような協同的態度が一層必要となることがわかる。欧米では、相互作用(interaction)の能力や態度が重視されており、語りの学習はこのような能力や態度の基礎を養うために有効であると考えられる。 2.協同的態度の育成を中核に据えて、語りにおける知見を援用したコミュニケーション教育の枠組みを基盤として、小学校、中学校の実践家と共同して授業研究を行い、その成果を『語りに学ぶコミュニケーション教育<上巻><下巻>』として刊行した。上巻では愛着を分かち合うというコミュニケーションが共同体(コミュニティ)を形成することを示し、また下巻では共同性を上げる語りのコミュニケーションとしての技能や視点によって、学習者のコミュニケーション能力を向上させられることを示した。 3.富津市立吉野小学校学校を実践拠点校として定め、これを全面的に支援し、全校で語りを生かした単元開発や授業づくりを行ってもらった。プロの語り手を派遣して教員と児童のそれぞれに語りや語りのワークショップの体験を積んでもらい、それを授業に生かしてもらった。特別支援が必要な学習者に対して人間関係を良好にする実践成果も認められた。語り込みのプロセスを何度も体験することによって、子供たちの協同的なコミュニケーションの能力や態度が磨かれることが、実践研究の成果として認められた。
|