研究概要 |
最終年度にあたる平成20年度には, 3種類の調査・実験を実施した。 まず,現職教員,音楽学部生,教育学部生を対象として,音環境に関するアンケートを行った。これは,通勤・通学先,居住地,日本,生活の音環境についての記述,様々な音・音楽のイメージ評定,及び自由記述からなる。その結果,「音と環境」を対象化してとらえる態度や習慣には,いくつかの段階性があることが分かった。 2つ目に,音楽を専門に学ぶ大学院生12名を協力者として,音・音楽環境と音楽的イメージに関する調査を行った。これは, 7日間のべ84時にわたり,ランダムに設定された時刻に協力者がメールを受信し,その時点での音・音楽環境と音楽的イメージについて記録するというものである。調査終了後,協力者には,データの意味づけを行うためにインタビューを行った。この結果を,英国における先行研究(Bailes,F., 2002)と比較したところ,想起しやすい音楽の要素に,同様の傾向が見られた。 3つ目に,上述の協力者を対象として, 2つのクラッピング実験を行った。1つは4種類の音楽に合わせて手拍子をするというもの,もう1つはシンコペーションのリズムパターンを打つというもので,どちらも音楽的イメージが行為に先行して生じているかどうかをみるためのものである。この結果をこれまでに行った実験と比較したところ,西洋音楽を専攻する学生には次の拍を予期してクラッピングする傾向が強いことが明らかになった。 これら3つの調査・実験の結果は,平成20年3月告示の中学校学習指導要領(音楽科)において新たに提出された「音環境」の視点から,環境と学習者との相互関係を評価する上で,重要な根拠になると考えられる。
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