研究概要 |
本年度(第一年度)は、学齢期の交通事故によって脳障害を受けた二事例(A, B)を対象にして、事故後の意識障害の状態の推移にともなう行動反応の変化を、遡及的に整理、分析した. 事例Aは、7歳11月時の事故によって脳挫傷を負い、3ケ月深昏睡状態が続いた.受傷後3ケ月から2年5ケ月間は意識遷延状態を呈し、その後症状固定期へ移行し、24歳となった現在いわゆる「超重症児」の状態にある.一方、事例Bは、8歳8月時の事故によって脳挫傷を負って昏睡状態に陥ったが、受傷後9ケ月で急性期外科医療が終了し、その後姿勢に3年8ケ月間入所し、現在14歳で養護学校中学部に在籍し、自宅から通学している.痙性四肢麻痺、言語障害の重複障害を有する. 養育記録、治療・訓練・指導記録、そして家族からの聞き取り資料などをもとに、事例Aに関しては16年間の、事例Bに関しては5年余りにわたる遡及的分析を試みた.その結果、脳挫傷の範圍や軽重という生物学的要因に規定される障害像に大きな差異がみられたが、それとともに、心理機能の回復を促す働きかけに関する共通点が明らかになった。その第一は、医学的に意識回復・症状固定と診断された時期に先行して、家族などによる言葉がけ等の働きかけに対する安定した反応(眼球の動き、瞬目、口の開閉)が観察されたこと、そして、そのような反応を観察することができたきっかけが栄養の経管摂取から経口摂取への転換であった.第二に、受傷前の経験に根ざすはたらきかけ(例えばかつての級友の声や歌の呈示)がそのような反応誘発に効果があった. 今後、周性期脳障害による重症児の発達過程との比較や非侵襲性脳機能測定を加えることによって、残存認知機能の明確化とそれを活用した指導法を開発することができる.
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