平成20年度の研究成果としては、反ド・シッター空間内の空間的曲面から生成される焦面やガウス写像への特異点論の応用がある。反ド・シッター空間は近年総粒子論や宇宙論で注目されているローレンツ空間形である。数学的には双曲空間のローレンツ版と解釈され、双曲空間が豊富な幾何学的性質をもつので、反ド・シッター空間も当然、豊富な幾何学的性質をもつことが期待される。特に、その中の部分多様体はブレーンと言う理論物理学において重要な研究対象である。この反ド・シッター空間は3次元の理想境界として、共形平坦なローレンツ多様体を持つが、Maldacenaが提出した超ひも理論における有名な予想として、反ド・シッター空間の古典的重力理論とその理想境界上の共形場理論が等価であると言うAdS/CFT-対応(ホログラフィック原理)がある。当研究では、この理想境界上へのガウス写像を定義し、特異点論を応用することにより、新たな幾何的不変量(ある種の曲率)を発見し、その幾何学的意味を研究した。ちょうどこの、ガウス写像がAdS/CFT-対応の数学版の一つであると考えることが出来る。さらに、大域的性質としてその曲率に対してガウス・ボンネ型の積分公式が成り立つことを示した。その際、重要な役割を担うのが、ラグランジュ及びルジャンドル特異点論である。また、ここで定義したガウス写像や曲率を用いて、プレーン宇宙論における事象の地平線(ブラックホール等)の形状の研究の可能性について新たな知見が得られた。またブレーンワールド理論においては、事象の地平線内に重力(子)が局在すると考えられるので、その形状についても特異点論を応用することにより考察可能となることが示唆される。
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