研究課題
多様体から多様体対への可微分写像に対して有限型不変量を定式化することが当初の目的であった。その目的のため、可微分写像の、部分多様体に沿った特異点の分類、部分多様体の逆像に沿った写像芽の分類、それらの隣接関係の調査、そして有限型不変量の定式化、最後に既存の不変量との関係の調査といった計画で研究を進めてゆく予定であった。そのため前年度には、1点の逆像に沿った写像芽の分類空間を構成したわけだったが、今年度はそうした分類空間の手法に頼らずに、より幾何学的な手法により、写像の同境分類に取り組んだ。その結果、円周へのモース写像に対する同境群を、曲面への安定写像のカスプ特異点消去の方法を駆使することにより完全に決定することに成功した。この結果は直接的に有限型不変量の定式化に役立つものではないが、多様体に対する有限型不変量の基本が同境関係であることを考えると、将来的に定式化に役立つことが十分に期待できる。なお、この結果は多様体から円周への写像の大域的性質に関するものであるが、それが平面へのジェネリックな写像芽という局所的な対象の研究にも役立つことが示された。具体的には、与えられた写像芽を安定摂動したときに現れるカスプの符号付き個数が、安定摂動の仕方によらずに定まり、さらにもとの写像芽の位相不変量となることを示すことができたのである。このことは、1点の逆像を考えるとき、特異多様体の位相的不変量を与えているともみなすことができ、有限型不変量へとつながる可能性が高い。また、曲面結び目を平面への射影を通して研究するための基礎理論も構築し、Vassiliev型不変量の構成への第一歩とした。このように、今年度の研究により十分な成果が得られたと言うことができる。
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