本研究では、およそ20年先の将来計画を見据えた軟ガンマ線天体観測用の結像光学系の、基礎開発を行うものである。特に、軟ガンマ線観測に特化したPt/C多層膜スーパーミラーを製作し、X線反射・散乱法によって多層膜の光学特性を調べ、低エネルギー領域での特性との比較を綿密に行う。これによって100keV領域における多層膜構造の物理特性の解明へアプローチする。軟X線領域における光学特性の理解がそのまま外挿できるかどうか、実験的に検証することができると期待される。実験結果から観測性能を評価する。 平成18年度においては、周期数最大200のPt/C多層膜と、硬X線望遠鏡(10〜100keV)用Pt/C多層膜スーパーミラーを製作し、放射光施設SPring-8において反射特性の評価を行った。実験では、反射率の定量的な評価を行うために、ビームの安定性、発散角、コリメート後のビームの形、X線撮像検出器の特性などを、あらかじめ精度良く測定した。反射率測定は200keVにおいて行い、最大4次までのブラッグピークをカバーする入射角領域において、鏡面反射成分だけでなく、反射光の角度分散も測定した。さらに、多層膜の積層方向の構造変化を調べるために、200keVより低いエネルギー(30〜100keV)においても同様の測定を行った。 これまでのところ、鏡面反射成分について詳細な評価を行い、200keVにおいて高い反射率が得られていると共に、光学定数についてもおおむねよく再現できていることがわかった。また、使用するエネルギーは多層膜に対する侵入長を決めるので、積層における界面の不完全さ(相互拡散および幾何学的粗さ)の成長、いわゆる積層効果を調べることができる。初期解析からは、有意な積層効果は見られず、軟ガンマ線反射鏡に必要な多くの積層が可能であることが示唆される。
|