本研究では、およそ20年先の将来計画を見据えた軟ガンマ線天体観測用の結像光学系の、基礎開発を行うものである。特に、軟ガンマ線観測に特化したPt/C多層膜スーパーミラーを製作し、X線反射・散乱法によって多層膜の光学特性を調べ、低エネルギー領域での特性との比較を綿密に行う。これによって100keV領域における多層膜構造の物理特性の解明ヘアプローチする。軟X線領域における光学特性の理解がそのまま外挿できるかどうか、実験的に検証することができると期待される。 平成19年度においては、平成18年度の研究成果に基づいて、多層膜自体の構造を理解するために異なるエネルギーにおける反射特性の評価を行った。放射光施設SPring-8において30、60 keVのエネルギーで反射特性測定を行い、既に測定した8、200 keVのデータをあわせ、広いエネルギー帯域における光学特性を評価した。その結果、界面粗さは特にエネルギーに依存せず、積層方向の粗さ成長も見られないことがわかった。現在の多層膜計算モデルと界面粗さモデルが正しければ、以上の評価から、軟X線から軟ガンマ線の広いエネルギー領域において、理論的に計算された光学定数を適用してよいことが確認されたことになる。 また多層膜の感度エネルギーの拡大において重要となる、最小周期長限界について、新たに定量的な評価を行った。望遠鏡光学系利用では斜入射角を極端に小さくすることはできないので、高エネルギー化においては多層膜の短周期化が必要である。これを評価した結果、Pt/C多層膜について周期長10A程度までブラッグ反射を確認したが、実用的な反射率は得られず、20A程度が短周期の現在であることがわかった。
|