本年度はマイクロコイルを用いた磁気共鳴イメージング装置の開発に向け、信号検出回路全般の開発を行った。特に、信号強度の観点から有利な電子スピン共鳴(ESR)に若目して開発を行った。信号検出回路は市販の分配器、ミキサー、移相器、ハイブリッドジャンクション、増幅器などの高周波素子を購入して構築した。フレキシブルな測定条件に対応できるためにロックイン検波とダイオード検波による2通りの信号検出回路を作製した。また、マイクロコイルとしてチップインダクタ(L=33nH、1×0.5mm^2)を採用し、セミリジッド同軸ケーブルの先端にハンダ付けして用いた。測定対象に応じて最適周波数領域での測定を可能にするために本研究ではインピーダンスマッチングを取らず非共鳴モードでのESR方式を採用した。 測定試料にはESR標準試料としてよく知られているDPPH(ジフェニルピクリルヒドラジル)を用いた。マイクロコイルに高周波を印加しながら磁場を挿引するとESR吸収に対応する磁場でマイクロコイルからの高周波反射率が変化し、信号強度が変化する。本研究では0.1-3GHzの広い範囲においてESR信号の検出に成功した。周波数限界は信号検出回路を構成している回路素子の周波数帯域で主に決まっている。また信号強度は低温になるほど増大するが、本研究では4.2-300Kの広い範囲で信号検出に成功した。将来的な応用を考える上で室温動作することは重要な要素の一つとして挙げられる。10μm角程度の試料(重量:〜10μg)の場合の信号雑音比はおよそ170程度であったことから、高感度の測定が実現できている。次年度はマイクロコイルの開発と2次元走査機構の開発を行い、イメージングに向けた要素技術の開発を行う予定でいる。また、テスト測定の結果、高精度の測定には高い磁場均一度、信号安定度が重要な要因となることがわかったので次年度の改善点としたい。
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