生体系の情報処理システムは常に環境由来のノイズに曝されているが、システムはノイズを利用して外部刺激に対する感度を向上させるなど、ノイズを積極的に利用している。近年数多く報告されている感覚受容器の確率共鳴現象はその一例である。一方で脳における情報処理過程、特に知覚や認知といった脳の高次機能にも同様のノイズ効果があると予想されるが、実験系の確立が困難であるために、高次機能におけるノイズの役割はほとんど分かっていない。そこで本研究では、主として視覚系の知覚・認知における確率同期の存在を明確にするとともに、この現象がどのように応用できるかを検討した。 平成19年度は、これまでに明らかにされているα波の確率同期現象を基にして、視覚認知に付随するα波の位相ダイナミクスと位相同期の空間分布を明らかにする新手法を確立した。すなわち視覚刺激提示に伴う脳波の測定部位間の位相差を多数回測定して位相同期率を求め、位相同期率がある閾値を超えた部位間をマークし、そのパターンの時間変化を可視化することによって、α波の位相ダイナミクスの時空間特性を明確にすることができた。さらにこの位相同期分布から引き込みパターン相似度を定義することにより、全頭ならびに前頭後頭間の引き込み特性を明らかにすることができた。こうした手法の開発を行うことで、視覚刺激がα波の位相同期を誘起し、特に前頭部の皮質間で相互に強く同期することが分かった。すなわち刺激提示後100-200msを中心に前頭部で最も同期し、またそれが刺激の性質に依存することが明らかになった。C9
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