研究概要 |
光合成のごく初期過程において最も重要,かつ興味深い点は,カロテノイドからクロロフィルへの高効率,かつ超高速エネルギー伝達である.しかし,研究の進展を困難にしている原因は,以下の二点を同時に満たす光源が存在しないことに起因する.(1)色素蛋白複合体中のカロテノイドによる吸収帯(400〜500nm)で十数フェムト秒のパルスを得る必要がある.(2)カロテノイドからクロロフィルへのエネルギー伝達を解明するためには,(1)の青色領域だけではなく,クロロフィルの電子状態が存在する600nm,及び800〜900nm領域においても超短光パルスを発生させる必要がある.しかもその光パルスは,青色領域の超短光パルスと同期している必要がある.本研究では,チタンサファイァレーザーの第二,及び第三高調波を励起光源として用いることにより,非同軸型光パラメトリック増幅器(NOPA)をシグナル発振させた後にパルス圧縮を行い,360〜750nmにおいて20フェムト秒以下の光パルスを発生させると同時に,THG-NOPAのアイドラー光をパルス圧縮し,630〜1030nmにおいても同様に20フェムト秒以下の光パルスを発生させる光源を開発する. 平成18年度は設計に基づき,THG-NOPAの製作を行った.THGの発生には,2種類のBBO結晶を用い,これをアドインユニットとして,すでに我々の研究室で開発を完了している,SHG-NOPAに搭載するという方法を採用した.THGアドインユニット試作機は500mm×300mmどの大きさである.SHG,及びTHGの発生には0.5mmのBBO結晶を用いた.チタンサファイアレーザー再生増幅器からの入力360mW(100fs,繰り返し1kHz)を2分割した後にSHG, THGを発生させる方式を採っているため,出力はそれぞれ21mW,及び14mWであった.THGの出力が低いために,(光を発生させるだけではなく)物性研究のための光源として,実用に耐えられるTHG-NOPAの安定な出力という段階までは至ることができなかった.しかしながら,これまでの開発において,THG-NOPAの安定な出力の鍵を握るのはSHGの発生であることが分かったため,次年度以降,SHG発生のための非線形光学結晶の種類と厚さを最適化し,更に開発を継続して進めていく予定である.
|