研究概要 |
平成18年度は,現有の装置を利用して火山噴煙に対してテスト的に観測を行い,問題点の洗い出しを行うことを主眼に置いた.まず,5月に行われた地球惑星科学連合大会(幕張市)にて,火山学分野(橋本・寺田)と大気物理分野(中村・高橋)の間で研究打ち合わせを行い,問題意識の共有と背景研究に関する情報交換を行った.分担者の中村は,京都大学で大気観測用ラマンライダーの小型化に成功し(本研究とは別経費),火山噴煙の観測にも利用可能にした.これを用いて,中村・橋本・寺田は1月に阿蘇山で噴煙水蒸気観測を実施した.弾性散乱を観測することにより,噴煙中でエアロゾルとして存在する水滴の濃度分布を捉えることに成功した.一方,水蒸気として存在している水は,ラマン散乱の波長成分で観測できるが,実際の観測条件では気温が低かったため相対湿度が100%に達しており,背景大気の水蒸気と事実上区別が付かなかった.一方,橋本は,火山噴煙用スペクトルカメラの開発のため,本研究費によりCRI社製の近赤外域液晶フィルターを新規購入した.装置の選定にあたり,すでに別研究で使用実績をもつ高橋の助言と情報を得た.2月には,寺田と橋本が,液晶フィルタと高感度CCDカメラ(寺田所有)を組み合わせて,室内実験によってフィルタの基本特性を調べるとともに,水蒸気による赤外線の吸収に関する基礎的な実験を行った.火山噴煙を対象とした本格的な観測の前に,いくつかの問題点が整理された.問題点の一つは,測定対象である噴煙そのものが高温である場合に,赤外スペクトルにどのような影響が出るかがよく分かっていないことである.また,水蒸気による赤外線の吸収だけでなく,水滴による散乱の影響をどのように評価するかという問題が未解決である.
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