研究課題
平成18年度は、大気中の光化学過程によるジカルボン酸の安定炭素同位体比の変動を明らかにすることを目的に、冬期から春期に採取した北極エアロゾル試料および海洋エアロゾル試料を研究対象にした。試料からジカルボン酸を分離しその安定炭素同位体比を測定した。まず、北極・アラート(北緯82.5度)にて採取されたエアロゾル試料(太陽光が到達しない極夜の2月末から太陽が昇り始める3月下旬および完全に白夜に移行する5月までの期間で1週間単位の採取)から、水抽出により低分子ジカルボン酸を分離し、次にBF3/ブタノールを用いてブチルエスエルに誘導体化した。GC/IRMSを用いて各エステルの安定炭素同位体比を測定し、エステル炭素の同位体比を補正することによってジカルボン酸の同位体比を計算した。その結果、シュウ酸の安定炭素同位体比は、3月はじめ(-23パーミル)から5月(-5パーミル)にかけて大きく増加することがわかった。マロン酸についても、同様の同位体比の変動が見いだされた。ジカルボン酸の濃度も測定した結果、濃度は3月から4月にかけて増加し、5月に向かって減少することがわかった。本研究の結果は、光化学反応でいったん生成されたジカルボン酸が光分解する際に同位体分別を起こし、同位体的に重いシュウ酸が大気中に選択的に残ることを示している。海洋エアロゾルについても、同様の分析をおこない、赤道域でシュウ酸の同位体比が重くなる傾向を確認した。また、ジカルボン酸の分解の際におこる同位体分別を室内実験で評価するために、過酸化水素を含んだ水溶液にジカルボン酸を加え、紫外線を照射する実験を開始した。反応後過剰の過酸化水素を除去するために酵素による分解・除去を検討した。現在、この分析法を用いて、反応後のジカルボン酸のエステル化を過酸化水素の妨害を受けることなく実施できる様になった。紫外線照射後のジカルボン酸の同位体比の測定をGC/IRMSで測定できる段階に到達した。
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