本研究では、point-to-pointの3次元ラマン顕微鏡により、地球深部起源の試料に蓄積された残留圧力を、ラマンスペクトルの微小な圧力シフトから可視化することを目指した。研究当初から技術的な問題となっていたことであるが、実験室の±0.5℃程度の微小な温度変化が、微小なラマンスペクトルの波数変動を観察する上では無視できない影響を及ぼす。この問題を解決するためには、実験室の温度を0.1℃以下の精度で制御する必要があるが、そのような高度な空調設備を整備することは現実的ではない。そこで、分光器に波長標準となるネオンランプの発行線を導入し、ラマンスペクトルとネオンの蛍光スペクトルを常に同時に観測し、分光器を逐次校正する機構を取り入れた。これまでラマン散乱光を取り入れていた光ファイバーを2分岐化し、一方にネオン光を導入し、両者の信号をCCDカメラ上に2本のアレイとして同時に検出するシステムを築きあげた。この機構により、ラマンスペクトルと同時にネオンランプの発行スペクトルを測定することが可能となった。本装置を用いることにより、ラマンスペクトルを波数安定度0.05cm-1で測定することが達成され、長時間に及ぶ3次元ラマンマッピングにおいても、高精度にラマンマッピングを測定することが可能となった。一連の技術的な開発により、ダイヤモンド中に含まれる異種鉱物の残留応力を独立に決定することができ、これらの鉱物の熱膨張率と圧縮率から、包有物がダイヤモンドに取り込まれた温度圧力条件を見積もることが原理的に可能となった。現実的に得られる値は、ダイヤモンド生成環境と比較して低い温度、圧力となっているが、今後より高い空間分解能で残留圧力を求めることで、より高精度な温度圧力環境の見積もりを今後展開されるであろう。
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