イオン液体は、揮発しない"グリーン溶媒"として注目されている。閉鎖系における反応では、不揮発性と既存の有機溶媒と異なる性質から、新しい機能溶剤として高い潜在性を有している。 イオン液体を電子顕微鏡の真空チャンバーに入れても蒸発しないことから、このものを電子顕微鏡で観察してみた。すると、チャージアップすることなく、あたかも電子導電性の物質のように観察することが出来た。この性質を利用すると、イオン液体で濡れた状態の試料をかんさつ出来ることになり、これを積極的に活用することが本研究の目的である。 多孔性試料の観察 有孔虫の殻で、絶縁性の多孔質物質である星の砂を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。蒸着等の処理をせずにSEM観察すれば、電子ビームで照射した電子によってチャージアップしてしまい、真っ白のノイズが多い画像となる。いっぽう、粘性の低いイオン液体(1-エチル-3-メチルイミダゾールビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドを含浸させ、それをサンプル台にくっつけて観察すると、チャージアップは全く起こらず、表面の微細な構造も明確に観測することができた。 膨潤する試料の観察 濡れることで形状が変化する生体試料として、わかめの観察を行った。乾燥ワカメは金の蒸着を施すことでSEM観察が可能になる。しかし、水で膨潤させたわかめは、そのままをSEM観察することは不可能である。わかめを水で膨潤させ、それを親水性のイオン液体中に漬け、水をイオン液体で置換した後に、真空中で水を充分に除去した試料を調製した。これをSEM観察すると、厚みが数倍にもなった、膨潤したわかめをSEMで直接的に観察することができた。 これらの結果は、濡れたままで観察したいあらゆる生体試料を観察する可能性を示すものであり、その可能性を広げるための研究を続ける。
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