研究概要 |
最近、結晶状態におけるフォトクロミズム研究が注目されている。その理由として、結晶構造だけでなく、結晶の形態が変化するような新規な興味深い現象が報告されている点が挙げられる。代表的なフォトクロミック分子であるジアリールエテン類は、開環体、閉環体ともに熱的に安定である特徴をもっている。この性質は、分子の構造やダイナミクスを調査するために様々な周波数分光および時間分解分光の適用を可能にさせる。本研究では、まず、結晶中のエネルギー散逸過程の研究に適した分子を見出すことに着手した。その条件としては、反応物と生成物の電子・振動状態を明瞭に区別できることが重要である。1,2-bis(2,5-dimethyl-3-thienyl)perfluorocyclo-pentene微結晶の開環体-閉環体のFTラマン分光を行った結果、開環体と閉環体のラマンバンドを区別できた。開環体結晶に紫外光を照射すると、S..S距離が0.24A長い歪んだ閉環体が生成することが知られている。歪んだ閉環体と歪んでいない閉環体を開環体からの閉環反応によって同時に観測された。歪んだ閉環体と歪んでいない閉環体の生成比は4:1と決定された。安定に存在する歪んだ閉環体のラマンバンドを観測することができた。歪んだ閉環体は、周囲の開環体との分子間相互作用によって安定化していることが量子化学計算から示唆された。歪んだ閉環体が隣接すると、歪んでいない閉環体に構造変化すると推定される。 紫外光照射によって生成した1,2-bis(3-methyl-5-phenyl-2-thienyl)perfluorocyclo-penteneの閉環体におけるエネルギー散逸機構を調査するためにアンチストークスラマンバンドの測定を行った。現在のところ弱いシグナルが得られている。S/N比の改善について検討している。
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