有機合成化学において求核置換反応は、様々な結合形成のために最も重要な反応のひとつである。塩基性条件下での反応では、化学量論量の塩基が必要となるが、ルイス酸触媒条件下での反応の場合、触媒量のルイス酸で十分なため、より環境調和型の反応といえる。一般にエポキシドやアセタールなどが親電子剤として頻繁に利用されるが、これはルイス酸触媒がそれら親電子剤の酸素などのヘテロ元素からなる極性官能基に対し高い親和性を有するためである。一方報告者は、最近金触媒を用いた様々な分子変換プロセスの開発に成功している。金触媒の最も優れた特徴はその高い炭素親和性であり、特に炭素-炭素三重結合に対し高い活性化力を有している。そこでこの炭素親和性を利用した求核置換反応が開発できるのではないかと考え種々検討を行った。その結果、オルト位にアルキニル基を有する安息香酸エステルに対し、金触媒存在下でアルコールを作用させるとエステルのアルキル部位をアルコールが攻撃し、エーテル結合が形成されることを見出した。またこれと同時にイソクロメノン誘導体が脱離基として生成した。この反応は安息香酸エステルのオルト位のアルキニル基を金触媒が活性化し、エステルのカルボニル酸素がこれを分子内で攻撃して、ピリリウム型中間体が生成し、これに対しアルコールが攻撃したと考えられる。これは結局金触媒によって反応系内で反応性の高い脱離基を構築して進行したことを意味しており、これにより報告者は極めて独創的な求核置換反応の開発に成功した。
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