ビス(ジエトキシホスホリル)アセチレンと硫化水素ナトリウム及びセレン化水素ナトリウムとの反応によりテトラホスホリルジヒドロチオフェン及びセレノフェンを合成した。種々のアセチレンを用いた検討からこの反応は電子的及び立体的要因を満足するジホスホリルアセチレン類に特有の反応であることが分かった。また、硫化ナトリウムを用いると主生成物はトリホスホリルジヒドロチオフェンになった。更にこれらジヒドロチオフェン及びセレノフェンのmCPBA酸化を検討したところ、ジヒドロチオフェンは1当量のmCPBAとの反応では対応するスルホキシドに酸化され、さらにスルホキシドからの脱水によりテトラホスホリルチオフェンを与え、過剰のmCPBAとの反応では4つのホスホリル基を有するスルホンを与えることが分かった。一方、ジヒドロセレノフェンはmCPBA酸化により容易にテトラホスホリルセレノフェンを与えた。4つのホスホリル基を有するチオフェン及びセレノフェンは通常の条件ではmCPBAにより対応するチオフェン及びセレノフェンオキシド類へと酸化はされず、むしろ酸化条件下安定であった。4つのホスホリル基を有する一連のヘテロ環化合物の構造は^<13>C及び^<31>P NMRに反映され、特徴的な化学シフト及び^<13>C核と^<31>P核間、^<31>P核間のカップリングパターンが観測された。また、^<77>Se NMRでは^1H及び^<31>Pとのカップリングにジヒドロセレノフェンからセレノフェンへの構造変化が反映されとともに、セレノフェンでは4つの電子求引性のホスホリル基導入の結果、極めて低磁場にシグナルが観測されることが分かった。紫外可視吸収スペクトルでは4つのホスホリル基の導入により、チオフェン、セレノフェンともに吸収極大が約20nmほど母体化合物より長波長シフトした。
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