ポルフィリンや環拡張ポルフィリンはアルデヒドとピロールの反応によりポルフィリノーゲンを得た後、適当な酸化剤による酸化によって合成する。アルデヒドとピロールの反応は脱水縮合反応であり、当然ながら無水条件で行われる。この脱水反応を水中で行うのは非常識であるが、水中で環拡張ポルフィリン合成を行ったところ、環拡張コロールである二種類のヘプタフィリンが生成していることを発見した。このうちピロールユニット7つと架橋炭素6つからなるヘプタフィリンは非芳香族性化合物であるが、酸性条件では芳香属性を示すという興味深い現象を見いだし、酸性条件下での構造をNMR分析およびX線結晶解析により明らかにした。芳香属性大環状化合物は非常に大きな二光子吸収特性をもつ可能性がある。そこでDongho Kim教授(韓国、延世大)との共同研究により物性測定測を行い、期待どおり酸性条件で非常に大きな値をしめすことがわかった。また、このヘプタフィリンの金属錯化挙動についても検討した。銅錯化では選択的に銅二核錯体が得られることが分かった。オクタフィリン銅二核錯体では加熱により二分子のポルフィリン銅錯体が得られることが分かっているが、ヘプタフィリン銅二核錯体のの場合には、ポルフィリン銅錯体とコロール銅錯体への分裂反応は見いだすことができなかった。これは、銅の価数の影響が考えられる。一方、オクタフィリン銅二核錯体の分裂反応の反応機構に関して、密度汎関数法を用いた分子軌道計算により検討し、炭素-炭素結合の切断においてラジカル中間体の生成を示唆する結果を得た。
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