オルトキノジメタンはDiels-Alder反応においてジエンとして働き、様々な親ジエン体と反応する。従って、テトラリン骨格を構築するための極めて有用な手法として認識され、有機合成の様々な局面で利用されている。しかし、オルトキノジメタンは極めて不安定な化学種であり、特に分子間反応における反応制御が困難とされてきた。そこで、この研究ではオルト(メタロメチル)ベンジルカルボン酸エステルにパラジウム触媒を作用することにより、2-パラダインダン中間体を発生させ、これをオルトキノジメタン等価体として親ジエン体と反応させる新しい触媒反応の開発を目指し研究を開始した。 その結果、(π-アリル)(シクロペンタジエニル)パラジウムと二座ホスフィン配位子DPPEから反応系中で調製したパラジウム錯体存在下、ジメチルスルポキシド中、反応温度120℃で、炭酸2-(トリメチルシリルメチル)ベンジルとアクリル酸メチルを反応させたところ、目的とする2一テトラリンカルボン酸メチルが収率78%で得られることを見出した。この反応では様々な親ジエン体が利用可能であり、電子求引性置換基をもっ活性化された基質だけでなく、スチレンのような活性化されていないオレフィンも親ジエン体として利用できる。さらにベンゼン環上に置換基をもつ2-(トリメチルシリルメチル)ベンジルエステルもオルトキノジメタンの前駆体として利用可能であった。しかし、この置換基と親ジエン体上の置換基に関連する位置選択性の発現は全く確認されなかった。この結果は、この触媒反応が2-パラダインダン中間体を経由して進行していることを示すものである。
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